何だか腹が立って仕方なかった。
そんな母親らしい視線を向けるなら、何であの男を止めてくれなかったの。
何であの男と別れてくれなかったの。
何でアイチと一緒に暮らしてくれなかったの。
母親らしいことなんて全然しなかったくせに。
母親らしい目をするのは最期だから?
何だかもうその場にいられなくて、あたしはその部屋を出た。
「真海子ちゃん!?」
外の空気を吸いに行こうとしたあたしを、アイチのお母さんは追いかけてきた。
あたしが振り返ると、こっちに近付いて来て言う。
「こんなに大きくなってぇ」
あたしはそれにニコリともせず、ただ軽く頭を下げた。
「今、パティシエやってるんですってね。すごいわ。偉いわね」
人に誉められて、ここまで嬉しくないのは初めてだ。
「アイチの方がずっとずっとすごいし、偉いです」
そんな言葉じゃ足りなかった。
足りなかったけれど、アイチのすごさをここで語る気にもなれない。
あたしはそれだけ言うと、頭を下げて歩き出した。
その背中をその言葉は追いかけてきた。
「あの子、あたしのこと恨んでたでしょう?」