「昨日はよく眠れたかしら」


千津ちゃんがそう声をかけると、アイチのお母さんは「お陰様で」とクマのできた顔で笑った。



アイチのお母さんがこっちに来ていることは、チェリーの報告で知っていた。


それでも挨拶に行かなかったのは、この人をあまりよく思っていないから。


けれど、大嫌いまでいかないのは、アイチを産んでくれた人であり、アイチが幸せを願った人だから。



会うのは小学生以来だったけれど、少し年を取ったと感じるだけで、それ以外は何も変わっていない。


落ち着いたしゃべり方も、髪を耳にかけ直す癖も、すべてが最後にあった小学生の時のままだ。



アイチのお母さんは、あたしに気付くことなく、まっすぐアイチの祭壇に向かった。


祭壇の前の真っ白い棺。


そのフタに付いた小さな窓を開けると、中を覗く。


その目は、自分の子を愛おしそうに見る普通のお母さんの目だった。



どうしてアイチが死んでしまってから、そんな目を向けるの?


どうせなら生きている時に向けて、アイチを幸せにしてあげてほしかった。



それ以上、その光景を見ていられなくて、あたしは床に視線を落とした。