あたしの記憶の中には小さい頃の勝ちゃんがいた。


その勝ちゃんは今みたいにあたしの手を掴んで走ってくれる。


「何か昔に戻ったみたい。よく勝ちゃんに手、引っ張ってもらってたよね。そうすると、すごい早く走れるの」


勝ちゃんは何も言わなかった。


何も言わなかったけれど、優しい表情で微笑んでいる。



勝ちゃんは警察に追われても、あたしを置いて逃げなかった。


足の遅いあたしなんて置いて逃げれば助かるのに、そうしたことは1度だってない。


この人があたしを捨てるわけがない。


素直にそう思えた自分がいた。


何だかものすごく晴れやかな気分だ。


そうだ、勝ちゃんはあたしを捨てたりなんかしない。


自分の中にあった恐怖が消えていることに気付いた。