「警察行こう」
やっと出すことのできた声は緊張からか、かすれていた。
そしてその内容も、びっくりするほどどうしようもない。
自分がどんなに傷つけられても、大切なディンゴを殺されても、アイチはあの男を訴えなかった。
その理由はただ1つ。
お母さんの幸せを守るため。
あの男がいなくなったら、お母さんがどうなるかと言うことをアイチはよくわかっていた。
そしてあの男はそんなアイチの思いを知っているからこそ、こういうことができる。
アイチに何をしたって一生訴えられることはないとわかっているんだ。
それを思うと、益々、この状況が許せない。
このまま、アイチだけが傷つけられるのは絶対間違っている。
彼女が人の幸せより、自分を選んでくれることを祈っていた。
アイチはあたしの前に来ると、小さい子どもを相手にするみたいに頭に手を乗せた。
「ありがとね」
その表情はものすごく優しい。
けれど、彼女はやっぱり言った。
「でも大丈夫。こんなのどうってことないから」
「どうってことあるよ!」
