ヤツは、さっきは指先までは見ていなかったので、今気づいたのだ。


「ネックレスは外したんだがな……」


赤い宝石が、部屋の電気を受けて光り輝く。


リングを一周してついている宝石は、滝本の家の力を感じさせた。



「こんなもの……親の金で買ったくせに!」


男はギリギリと拳を震わせる。





ヤツは……陸が、会社の社長をやっているとは知らなかった。

そして、陸の日々の苦労も。


いくらずば抜けた頭脳を持っているからと言って、学業と仕事の両立は簡単ではない。

誰にでも、体力の限界はある。


そんな中で睡眠時間を削って、夜中まで仕事をこなし。

昼間は、大学へ通う。


それで、“過労”と医師から言われるまで働いていたというのに。


男は、そのネックレスやピンキーリングを親の金で買ってプレゼントしたものだと思い込んでいた。


実際は……自身で働いた給料で買っていたというのに。



「こんなものをつけては……俺の杏樹とは言えない」



男は、一旦部屋を出て……。


鋭い刃物を手に戻ってきた。


――キラッ



電気が反射して、刃物がひかる。




「杏樹、そんなものは……外そうね?」



そう言って、杏樹に近づいた。



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