「杏、機嫌直せって」

「フンッ!」


隣にいる陸の言葉を無視して、大学の構内をスタスタと歩く。


「別にいいだろ。あれくらい……」

「どこがよっ!?」


呑気な声を聞いて、怒りが爆発した。

背の高いヤツをギロリと睨みつける。



あたしがこんなに怒っているのは、理由がある。

それは、数時間前にさかのぼるんだけど……。



今日は、京都から帰ってきた翌日。

昨日の夜に自宅に着き、陸に会ったのは今日の大学での講義。


あたしも、1週間ぶりに会えるから、うれしかったのに。

ルンルンで、大学に着いたというのに。



このバカ野郎。



教室で会うなり、キスしてきた。




チュッって感じで、一瞬だったけど……まわりに見られて大騒ぎ。

特に、陸を好きな女の子たちには睨まれ、指をさされ……散々な気持ちで講義を受けたんだ。


もう~ありえないんですけど!!



「キスくらい慣れろや」

「そういう問題じゃない!!」


シャーっと猫のように威嚇してみるが、陸に反省の色はない。


なんでこうも、自分勝手で、自己中なの!?

はぁ~と大きくため息をついた。


「ほら、蓮たちのとこに行くんだろ?」


あたしがいくら怒っても、ケロッとしているヤツは、手を握って引っ張る。

怒りをやり過ごして、病院へと向かった。