翌日のお昼過ぎ……。
「お世話になりました!」
キャリーバックを持って、玄関でそう挨拶をする杏樹。
駅までは、翠たちが送って行くらしい。
私も見送りに行きたいけれど、翠が行くなら……私は残って、この場を守らなければいけない。
もうちょっとゆっくりして行けばいいのに、この孫は。
「もう……帰らなきゃ。大学もあるし」
そう言って、荷物をまとめた。
「杏樹ちゃん、今後、彼も連れて来なさいな」
「え……!?」
家族の前で言った私の一言に、驚く顔をする翠。
「お父さん聞いて! 杏樹ちゃんの彼氏、ものすごくイケメンだから!!」
続いて早和の告げ口に、杏樹の顔色が変わった。
「杏樹ちゃん本当かい!? 兄貴は知ってるのか?」
どうやら、まったく聞かされていなかったらしい翠。
「はい、まぁ……じいちゃんも知ってます」
ポリポリと恥ずかしそうに頬をかく孫は、とてもかわいらしい。
『こんな美人を射止めた男が見てみたい!』
翠の表情から、そんな思いが伝わってくる。
「……ことが落ち着いたら、連れて来るから」
私に向かって、笑いながら言ってくれる杏樹。
「約束だよ? 絶対だからね!!」
杏樹の彼氏さんに、どうしても会いたいらしい早和は、杏樹と指切りをする。
「うん、絶対にまた来るから」
そう言って、杏樹は。
京都版の神崎家を発って行った。