キャリーバックの中に、着替えや必要なものを詰める。


「なぁ、本当にひとりで行くのか?」


寂しそうな、心配そうな声が背後からして、荷造りをする手を止めて振り返った。


「うん」


床に敷いたカーペットの上にあぐらをかいて座る陸。


「俺も行く」

「ダ~メ。お仕事あるでしょ?」


ワガママを言い出すヤツの前に、腰を下ろした。



7月中旬になり、夏本番はもうすぐそこ。


あたしは、目覚めてから3日目の今日、無事に退院できた。


会長たちは、もうちょっと入院するらしい。



退院する時は、お母さんが家族としてついていてくれたけど、お母さんもそろそろ仕事がたまっていると言って、あたしと陸を家に送り届けた後、会社に向かった。



だからこの家には、陸とふたりっきり。


繭ちゃんは、会長の傍にいたいらしく、今日は帰って来ない。

そして、あたしが家に帰ってきて、すぐに荷造りをしているのには、理由がある。




じいちゃんに、「ばあちゃんのところに行きたい」と言ったから。



ばあちゃんがいるのは、京都。


そこにも、あたしのお父さんの弟である、翠叔父さんもいる。


ばあちゃんと翠叔父さんに、ちょっと力を借りたいんだ。