『うん。ママ、あーちゃんは帰って来ないの?』


繭と呼ばれた女の子が、声をかけてきた女性に問いかける。


『杏樹? 今夜は、バイトなのよ。繭ちゃんが寝るころに帰って来るわ』

『あーちゃん遅いんだ……』

『そうよ、だからご飯食べましょう?』

『うん』


そう言うと、女の子のなのか……。


――ピョコピョコ


かわいらしい足音を立てると、出て行った。

だが、女性は残っていたようで。


『な~んか、おかしい気がするのよね。杏樹の部屋って……』


そうポツリと呟く。


男はそれを聞いていて、ドキッとした。

自分の行為がバレているのではないかと。


そう……神崎杏樹の部屋を盗聴していることを―――。

しかし、それは男の杞憂に終わる。


『大丈夫よね、うちには渉だっているし。お義父さんもいるんだから』


自分に言い聞かせるように呟くと、部屋を出て行った。


「はぁ……」


男は思わずため息をつく。


そして、機器の電源を落とすと、部屋の片隅にあるモノを手に取った。






藁(わら)で作られた……人形だった。



***************