その声は、さっきまであたしを見下ろしていた八岐大蛇じゃない。

八岐大蛇なんかより、はるかに怖い存在。


ヤツは、あたしの首根っこを掴み、自分の方に顔を向けさせる。

「ひっ……!」

人間って、こんな表情ができるんだと思った。

というか、目の前にいる人が恐ろしすぎて声も出せない。


「ん? お前は俺から逃げられるとでも思ったのか?」

「い、いえっ……」


こ、怖いよ!

――フルフル

顔を横に振って、否定する。


「杏樹! 何回俺に注意されれば気が済むんだ! 死にたいのか!?」


――ビクッ

あまりに大きな声で怒鳴られるものだから、怖くなって体が震えだした。

少し離れたところにいる5人組も、ヤツの登場に驚いている。

というか、畏れているかもしれない。


そ、そんなに怒らなくても……いいじゃん。

そうあたしが口をモゴモゴとさせていると。


「あぁ? 何か言いたい? この俺に口答えするわけねーよな?」


憤怒の形相で、ギロリと睨みつけられる。

え、閻魔大王だ。大悪魔だ。


「だってぇ~……」


あたしが言い訳まがいの言葉を口にしようとした瞬間。


「だっても、クソもねぇ!」


――ビクッ!!

さらに怒鳴られて、涙が出そうになった。

ここまで怒られたのは、久しぶりだよ。

初めてかもしれない。


「戻るぞ、時間はねーんだから」

あまりに恐ろしい形相の陸には、何も反抗とかできなくて。


「はい……」

大人しく肩に担がれるしかなかった。