ーー陸sideーー

≪おい、ホントに明日連れて来るのか?≫

「あぁ、もうそれしかないだろ」


散々な食事会から、1週間後の金曜日。

深夜に近い時間。

ソファーに座り、ケータイで、蓮と電話中。


≪でも、アイツあーいうとこキライなんだろ?≫

「だな、できれば一生行きたくないとか言ってた」

≪大丈夫か?逃げ出したりするんじゃねぇ?≫

蓮が杏のことだからと、心配する。

うん。その可能性は十分にあるな。

杏なら、術を発動させても逃げたがるだろう……。


「仕方ねーだろ。あっちが、杏だけはと指名して来てんだから」

ハァ~と、デカいため息をつく。

こんなに悩んでいるのは、明日のこと。

ちょっと?いや、だいぶ大きなイベントがあるもんで。

それも、杏が1番キライなものだ。


≪アイツ、ぜってぇ怒るぞ≫ 

「覚悟の上だ。けど、そろそろ慣れてもらわなきゃ、将来がやっていけねーんだよ」

≪杏は神崎の社長になるんだもんな。イヤでも関わることを免れねーし……≫


そうなんだ。

明日のことは、杏の将来のためにも必要なことであるのはたしか。

杏の親父さんと、おじい様からも頼まれてるから、断れない。


「明日、どうやってでも連れて行く。逃げたら、鬼ごっこすっから頼むな」

≪わかった≫


そう言って、蓮との電話を切った。

もう一度、デカいため息をつく。

自分の隣に置いた紙袋の中を見た。


明日、杏が不機嫌になることは覚悟しよう。

でも、どうしても明日だけは……泣こうが、わめこうが、我慢してもらうしかない。

どーか、穏便に済みますように。

心の中で、ひとり祈った。