「頼むから、普通に歩いてくれないか?」


『抱えている案件』を片付けるために仕事に出掛けた良介の斜め後ろを、プカプカと浮遊しながらゆうりが付いてくる。


「でも、他の人には見えないんだから、良いじゃないですか」


「……私の精神衛生上、良く無いんだ。頼む」


「あ、はい。そう言うことなら歩きますね」


ニコニコしながら、今度は良介の後ろをチョコチョコ歩いて付いてくる。


「はぁっ……」


良介の口から、我知らず溜息が漏れる。


彼女の言う通り、良介以外にはその姿は見えないようだった。


空中をプカプカ浮いているゆうりとすれ違っても、別段驚く人間はいなかったのだ。


自分には霊感など無かったはずだ、と良介は思う。


少なくとも、今の今まで幽霊に会ったことも話したことも無かった。


なぜ、俺なんだろう?


もっとそう、霊媒師だの、坊さんだの、神父だのの所に行けばいいものを……。


こうして、私立探偵・柿沼良介の長い一日は始まった。