彼女の言うことには【探偵柿沼良介の多難な1日】短編



まさに、聖母マリアさまだな――。


男には、逆立ちしても叶わない。


「ゆうり……」


ぽつりと良介が呟く。


「えっ?」


「この子の名前さ、『ゆうり』がいいな、と思ってさ」


「ゆうり――。いい名前ね」


あの時、最後の瞬間彼女は、『ゆうり』は、確かに良介にこう言ったのだ。


「ありがとう。お父さん――」と。


ゆうりが誰だったのか。


何故自分の所に現れたのか。


初めて我が子と対面しその顔を見た時、良介は分かった気がした。


その寝顔には、ゆうりの面影が色濃く現れていたのだ。


きっとお前は、俺を助けるために来てくれたんだな……。


こっちこそ、ありがとうな。


お前のおかげできっと、俺は今ここにいる。


良介は、安らかなその愛おしい寝顔に、そっと語り掛けた。