「どうし、」
どうした、とは続かなかった。
里桜の顔が近付いてきたからだ。
「え、ちょ、なにす、」
「黙って。」
後ずさって逃げようとする俺の腕を、里桜の手が掴む。
その時の里桜の顔は真剣で。何がなんだかわからなくなった。
ただ一つわかるとするならば。
俺は今非常に危険な状態にあるということだけだ。
「…っ」
いよいよヤバイ。
里桜との距離は、今や10センチもない。
これはキスされる。
そう悟った俺は、きつく目を閉じてその時間が過ぎるのを待った。
だがいつまで経っても触れることはなく。
薄く目を開けると寸前で止まっている里桜の顔が見えた。
「ちょっ…!!」
「喋らないで。喋ると…
キスしちゃうよ?」
慌てて離れようと口を開いたら、静かに脅された。
こんなに怖い表情をした里桜を見たのは初めてだ。
しょうがないからしばらくその状態で止まっていたら、里桜が離れた。
「これで智士は里桜のものだからね♪」
意味不明な言葉を言い残して教室を出ていった。
「何がしたかったんだ…?」
里桜が去って行ってからしばらく考え込んだが、結局わからなかった。
俺は当初の目的を思い出して慌てて綾の用意を鞄に詰め込んだが、
頭の中はさっきの里桜の言葉でいっぱいだった。
{智士side 終わり}



