「もう…いいから。」


再び同じ言葉を紡いだうちから、拓海は目線を逸らした。

その顔は、とても辛そうで。

今にも泣き出してしまいそうだった。



力無く垂れた拓海の腕から解放された里桜の腕は少し赤くなっていた。



訪れるのは沈黙。



誰も何も喋らない。



……なんで、こんなことになるんだろう?



うちは、なんでこんなところにいるんだろう?



また何も、わからなくなる。





考えが巡る沈黙を、いち早く破ったのは、




「…里桜、智士のところ行かなくちゃ。」



嫌味女


事の発端を作った本人だった。



「……お前、まだわかってねぇのかよ?」



「わかりたくもないわ、そんなつまらないこと。」



この二人の会話には、さっきから主語が存在しない。


話している内容がわからなくて思わず呆けていると、拓海に見られた。



「……綾、その顔、他の人には見せない方がいいよ。」



それはどういう意味だい!?


そんなにか!!そんなにヤバイ顔をしてたのか!!



そう叫んでやりたかったが、さすがにこの状況にはそぐわないと判断したので、


「……拓海のバカ。」



小声で精一杯の悪態をついておいた。