~12年後~

「さてと、行くか。」
スーツを来た青年は、そう言うと一人暮らしの部屋をあとにした。手には花束を持って。
向かった先は墓地だった。花束を置いて、線香をあげると、青年は墓に話しかけ始めた。

「なつこ、元気か?今日は花束を持ってきたぞ。まあ、なつこの花束には敵わないけどな。兄ちゃんはもう社会人になっちゃったよ。一人で暮らしてるし、もう立派な大人だ大人!すごいだろ?大人は大変なんだぞ?辛いこともたくさんあるし。」

しばらく、翔太は黙った。そして数を数え始めた。

「ひと~つ、ふた~つ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお!」

「でもな、辛いことがたくさんあっても、俺は我慢して頑張るからな。なんってったって、俺はなつこの兄貴だから!」

墓標のすぐ横のジャリに紛れて、タンポポが力強く咲いていた。翔太はそれをゴシゴシと指でなでると、

「じゃあな、また来るよ。」

そう言って墓をあとにした。

その時、墓の横のタンポポは、「ニカッ」と笑ったような気がする。