ドアの前には、なつこが立っていた。大泣きした真っ赤な顔で、グシュ、グシュ、といっている。

「どうしたんだ?なつこ。」

父さんの言葉に反応せず、僕の寝ているベッドまでゆっくりとやってきた。そして、

「お兄ちゃん、ごべんなざい。」

言いながら涙がボタボタ垂れる。その瞬間、僕の怒っていた感情は、すぅーっと引いていった。

「俺も殴ったりして、悪かったな。」

僕はそう言って起き上がると、なつこの頭をゴシゴシとなでた。

「ごべんなざい。ごべんなざい。」

なつこは顔をクシャクシャにして、何度も何度も謝ってきた。

「わかったから。もう泣くな。」

僕がそう言っても、首をぶんぶん横にふって、何度も何度も謝ってきた。

「ホント、妹ってズルイよなぁ。」

父さんの方を見て、皮肉っぽく僕は言った。父さんはそれを聞いて微笑んだ。

「よし、なつこ、お風呂入ろう!な?」

僕がそう言うと、なつこはゆっくり、こくんとうなずいた。

「よし!今日は父さんも一緒に入るぞ!」

「ヤだよ。せまいし、恥ずかしいよ。」

「いいから、いいから。」

その日は、すっかり笑顔を取り戻したなつこと、僕と、父さんで一緒にお風呂に入った。あがる前に、みんなで数を数えた。

「ひと~つ、ふた~つ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお!」

風呂あがりに僕は、なつこに

「もう、泣くなよ。」
と言った。

「うん!」

なつこは元気よくうなずいた。
その日から、なつこは泣かなくなった。