「いや、仕事相手なんだけど……さ。

じゃあ、オレらが今日来る話、全く聞いてなかったとか?」


「聞いてないよぉ……」


そ……そんな、再婚だなんて。


私が困った顔をしてると、大倉は「リビングに行こう」って言って、背中を押してくる。


ひどい……。


ウチのお母さんって、秘密主義で、大切なコトをいつも最後に言うんだ。


こんなに大切なコトをどうして言ってくれないの?


リビングの扉の隙間から中を覗くと、私もよく知ってるひとが座っていた。


お母さんがお世話になっているデザイナー会社の営業さんで、


娘の私にもすごく好意的に接してくれる、笑顔の優しいお兄さん。


お母さんが、“完(かん)くん”って呼ぶから、私も完くんって呼んでる。


そう、この完くん。


電話やメールのやり取りですむ仕事もなぜかうちまでわざわざ来て、しばらく長居していくという……。