今のあたしたちに出来るのは、流れ落ちる汗をハンカチで拭くことだけだった。

張り込んで5分が経過。

「泉田が出てきてくれりゃ動きようがあるんだけど…」

あたしがそうつぶやいた時だった。

いきなり範子の部屋のドアが開き、そこから範子が転がるようにして出てきた。

続いて出てきたのはランニングシャツを着た坊主頭の男。

明らかに興奮した様子で手には銀色に光るナイフを握っている。

泉田だ!

「レミの願いが天に通じたな」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

あたしは達郎を一喝すると、車のドアに手をかけた。

星野警部補と越沼さんはすでに飛び出している。

あたしも急いで2人の後を追った。

そうしている間にも、範子と泉田は激しくもみ合っていた。

やがて範子は泉田に突き飛ばされ、今度は文字通り階段から転げ落ちた。

範子が地面に叩きつけられた時、星野警部補と越沼さんがアパートの階段にたどり着いた。