よく見ると、その瞳にはもう、携帯の画面も新聞の社会面も、どちらも映ってはいなかった。

憂いの色とは違った、別の何かが浮かびつつあった。

あたしは半熟プリンの箱を膝にのせると、床に置いといたカバンをあわてて引き寄せた。

そしてカバンから缶コーヒーを取り出して、達郎に渡す。

喫茶店に入る前、地下食品売り場であらかじめ買って置いたのだ。

「お、お客様!?」

後ろから戸惑いの声が聞こえてきた。

さっきのウェイトレスがグラスを手にしたまま目を見開いていた。

あら、まだグラス下げてなかったのね。

まぁ、喫茶店で缶コーヒー取り出すなんて、ラーメン屋でカップラーメン取り出すようなものだから、当然のリアクションだわな。

でも今は事情があるのよね。

あたしは警察手帳を取り出すと、中を開いてウェイトレスに見せた。

「捜査中なんです。協力して頂けますか?」

どんな捜査なんだオイと心の中で突っ込みつつも、毅然とした態度で言った。