「大丈夫か?」
すぐ近く、耳元でささやかれて、私は砂漠の中にいるぐらい熱くなった。
「うん。全然、大丈夫」
それさえ言うのが精一杯だった。
 もう一度ベンチに座り直す。鼓動が全然収まらない。それに、とても熱い。
 今春だよね。夏じゃないよね。
「えっと、ありがとう」
話が繋がらない…。
 何を話していいものか。全くわからなくなった。
 彼が隣に座った重みで、古いベンチが少し音をたてた。
「デジカメで、なにしてたんだ?」
手の中にあるデジカメを指差し、興味津々に聞いてくる。
「写真、撮ってたの」
私のバカ!そんなこと、わかりきってんじゃん!彼は、そう言う意味で聞いてるわけじゃないって!
 私は慌てて答えを探す。
「えっと、この駅を撮ってたの。桜、綺麗でしょ?毎年この時期には桜が舞うの。どこの桜かは知らないんだけど…。
 毎年の恒例行事でさ。今日は、一日中写真を撮ってるの。このベンチに座ってさ。
 この景色がね、何よりも好きなの」
息継ぎを忘れるぐらい、ペラペラとまくし立てる。
 何をこんなに焦ってるのか、私には全くわからなかった。
 永遠にしゃべり続ける私を、どんな風に思っているのか、どんな風に見えているのか、気にする余裕すら無かった。
 実際、自分がなにを話しているのかすら、わかっていなかったりする。
「あ、ごめん、しゃべりすぎだね」
やっと、話しを終えることが出来た私は、恥ずかしそうに頭を掻いた。
 だって、彼が聞いているのか、そもそも居るのかすらわからない状態で、べらべらと永遠に意味のないことを話したんだよ。恥ずかしくもなるさ。
 ちらっと隣を見ると、ちゃんと彼はそこに座っていた。
 少しうつむいているだけで、表情が髪に遮られる。手を口に当てているせいかもしれない。
 しかし、肩が体が震えていることはわかる。なんの震えかは、いまいちわからないけれど。