とかなんとか思っていると、降りる駅に着いていた。
「タク!」
扉が開く同時に現れた愛しい人。胸の中に幸せが溢れて、思わず走り出した。
 ドンッと抱きつくと、タクは困った様な慌てた。
「ユイ?ちょっと、恥ずかしい」
「ちょっとならいいじゃん~」
そう言って、もっとギュッと抱きしめた。洗濯の匂いと汗のにおい。タクの匂いだ。
 なんて、タクの胸に顔を埋めながら、微笑んだ。
「かなり恥ずかしい。離れろ!」
私の頭を掴んで引き離そうと力をいれる、タクの腕に見たことのない傷があった。
 浅くて小さい傷だけど、血が固まってた。
「タク怪我してる~」
私は抱きしめていた手で、傷口をつつく。痛まないみたいだけど、タクは顔を歪めた。しまったという顔だった。
「それは、ちょっと…」
「ふ~ん。ちょっとねぇ」
怪しいな。と下から見上げていると、いつの間にか降りていたナオ達が目に映った。
「これが例の彼氏さんの夏空(なつぞら)タク」
「例のって、ど~ゆ~ことだ?ん?」
「んで、こっちが友達のナオと、その彼氏さんのショウタ君」
私が手で指した先で、ナオが軽くお辞儀をしていた。ショウタ君は相変わらずマイペースで、ふらっとどっかへ行こうとしていた。
 それに気がついたナオがガシッと襟を掴む。
 なに?と言うようなショウタ君の顔は、野良猫の様だった。雲と言ってもいいかもしれない。
「お~い。人の話聞いてますか~?」
「タク~。私お腹すいた。どっかいい店に案内してよ~。タク、こっちに詳しいんだからリードしてね」
「聞いてねぇな」
「しゅっぱ~つ!」
タクの腕に自分の腕を絡めて、私は意気揚々に歩き出す。
 後ろから、軽い痴話喧嘩が聞こえる。でも、それはじゃれ合いと同じだから気にしない。
「結局、自分がリードしてるじゃねぇか」
「タクがノロいからだよ」
「あ、聞いてたのか」
「ほら、早く」
ギュッと握りしめる、手。すると、握り替えしてくれる手。
 こんなことだけで、世界一の幸せ者って思えるんだよね。