「ばっ…! 利実、起きろよ! 抗えっ!」

どんなに大声を上げても、誰も起きないし反応もしない。

それは利実も同じだった。

「くそっ! 動けよ、自分の体だろう!」

どんなに体を動かしても、イスからは立ち上がれない。

行ってしまう!

オレの目の前で、孝一が行ってしまう!

もうオレの手が届かない所へ!

「本当にありがとう、和城。僕はキミが全てだ。キミが無事に生きていれば、僕は同じように生きている」

「そんなっ…!」

「僕は僕のことが一番嫌いだったんだよ。キミの為に何かしたいのに、できない自分が大嫌いだった。でも…最後にこうやってキミの害を持って行くことができる。それで充分だ」

「バカヤロウ! お前はオレの側にいれば良いんだ! それだけでっ…それだけでオレは救われていたんだ…!」

ボタボタと涙が床に落ちる。

泣いている姿なんて、親にも友達にも見せたことはない。

ただ、孝一の前だけ。

コイツの前だけは泣けた。

「…ゴメンね。キミには謝ってばかりだった。そして感謝してばかり。―ありがとう」

「孝一っ!」

「キミの害は、僕が持って行く。さようなら、和城。キミはもう自由だ」

最後に清々しく笑って、孝一はバスを、降りた。