共に行く者

思わず不安になって、孝一に向かって手を伸ばした。

だが孝一は立ち上がり、オレの手は空を切る。

「ゴメンね、和城。もう時間みたいだ」

「あっああ、バスが動くのか? なら、座れよ。あっ、今の内に席を…」

…そこまで言って、オレは異変に気付いた。

オレは、イスから、立ち上がれない。

まるで体がイスに縫い止められているかのように、離れないのだ。

「あれ? オレ、大分疲れたのか?」

「そうだね。もう少し、ゆっくり休みなよ。その間にきっと回復するから」

「そっそうだな」

「あと僕は…もう行くね」

「えっ?」

驚いて顔を上げると、孝一は泣きそうな微笑を浮かべていた。

「僕は行かなきゃいけない。でも…このまま1人では行けない」

固く決意した表情で、孝一は後部座席に向かって歩き出した。

「おいっ! 孝一、待てよ!」

やっぱりおかしい…!

これだけ大声を出しても、誰一人動いていない!

オレは必死に首だけを動かす。

すると孝一はすぐに戻って来た。

その両腕に、利実を抱きながら…。

利実は眠っているようだった。

孝一にお姫さま抱っこをされていても、利実は何の反応もしない。