かけがえのないキミへ



この風呂場が湯気で埋め尽くされるように、俺の中は綾音で埋め尽くされているんだ。

綺麗に体を洗い流して、俺は風呂場から出た。
下着を履いて、バスタオルで髪の毛を拭いていると、リビングの方からなにかが落ちたような音がした。

凄まじい物音。
綾音?
俺は不安になり、下着姿のままリビングへと走って行った。


ベランダには綾音の姿はなく、ゆらゆらと気持ちよさそうにカーテンが揺れていた。


『綾音?!』


ふとキッチンを見ると、綾音がしゃがみ込み、なにかをしている。

内心ほっとする俺。
良かった、無事で…


『綾音、何してんの?』

綾音の方に近づくと、綾音の目の前には無惨に割れた卵があった。
割られた殻から黄身が飛び散っている。


俺は綾音のもとへ駆け寄り、卵を拾った。


『なにしようとしたの?危ないじゃん』


近くにあった布巾で綾音の汚れてしまった手を拭いてあげた。