「…俺が言ってんのは“赦し”のことだが…まあ、あいつが何も言わないならいいってことだろ?何悩んでんだ…」
うーんと悩みだした乙姫に紅夜は苦笑を浮かべる
前半部分はよく聞き取れなかったが、要注意人物に励まされてしまった
「それより、心の準備は出来てんだろうな?」
心の準備?――乙姫は何のことだろうと首を傾げる
そんな様子を見て紅夜は呆れたようにため息をついた
「お前は…転・校・生」
乙姫の額を指を差す。
「ああ…!」
すっかり忘れていた。
「ああ、って…緊張感がないヤツだな。」
紅夜は再びため息をつく。
しかし、言い返すことはできない。自分でもそう思ってしまったのだから
階段を上り切って角を左に曲がれば“2−A”の教室はすぐだった
紅夜の指示通り、先に教室を入った彼の指示を廊下で待つ
しばらくして“入って下さい”との指示が乙姫の耳に届いた。
教室に足を踏み入れた瞬間、先程までざわざわとざわめいていた室内が静まり、そして次の瞬間には職員室で経験したようにヒソヒソと話し声が教室中に起こった
転校生というものは話題になるものだ。だから仕方のないことだと思うが、向けられる視線や言葉が痛い
そのどれもが乙姫にとって経験のないものだった
「では、自己紹介してくれますか?」
紅夜は一本の白いチョークを渡しながら再び教師口調で乙姫に指示する。
乙姫は“はい”と頷き、それを受け取り黒板に滑らせていく
“神薙 乙姫”
そう記された瞬間に好奇一色だった視線は嘲笑、妬みの含まれるものに変わっていった
理由も分からない敵意がそこにはあった

