初恋の向こう側



中森さんはその日、バイトに来るなり俺に言った。


「佐伯君って、高校生ってことは、やっ やはり、現役女子高生の友達がいたりするのかな?」


なんすか。その、” 現役女子高生 ”っていうのは?
響きがとっても危ないんデスけど……。

さっきの質問は聞こえなかったことにして、逆に中森さんに尋ねた。


「それで今日は、何て呼べばいいんですか?」


そんな俺に中森さんは、片方の眉だけ上げて言う。


「佐伯君! 何度も同じ事を言わせないでくれたまえ。
”今日は” ではなく、僕の名前は元々 “シュン” だよ?」

「……」


最初はタクヤで、次がリョウで………。

名前にコンプレックスがあるのか?
それとも俺にツっこんで欲しいのか?

会う度に、顔に似合わない名前をリクエストしてくるミノル。

面倒くさくはあるけど、特に害は無いので付き合っている俺。

『女子高生の友達を紹介して?』なんて頼まれたら、どうやって断ろうかと内心ビクついてたけど、中森さんはそれ以上言及してこなかった。

身の程を自覚してるってことか?

それともこういう人たちって、恋愛は妄想の中でしかしないのかな……?

まっ そんなの、どっちでもいいけどね……。