初恋の向こう側


「電話じゃなんだから、会って話そうよ」

「わたし、佐伯君と別れたりしないよ」

「…千尋」

「やっと掴んだ恋だもん。ずっと片思いしてて実った恋なんだから。だって、わたし達付き合ってまだ半年も経っていないよ?
だから、そういう話なら会いたくない」


訴えるように言った千尋の涙声に、俺の優柔不断な心が揺らぎそうになる。


「とにかく、明日待ってるよ」

「わたしは行かない」

「待ってる」


少しの沈黙の後で切れた通話。

そのままベッドに倒れ込むと、大きな溜め息が出た。

寝ころんだまま窓の方へ体を傾けカーテンに手をかける。

明かりが灯っていた。

窓ガラスの向こう、ピンク色したカーテンのその奥にヒロがいる。


……会いたい。

こんなに近くにいるのに ―― もどかしくて、ただ苦しかった。