初恋の向こう側



その日から、千尋の携帯が繋がらない日が続いた。

メールを送っても返事がない。


そして五日目の夜、やっと電話に出た千尋は力なく「はい」と応えただけで、後は黙ったままだった。


「会って話がしたいんだ。明日はどうかな?」

「……」

「俺がヒロの、椎名茉紘の事を知らないって嘘を言った事とか、ちゃんと説明したいんだ」


通話口に向かって必死に語りかけるが、何も言わない千尋。

構わずに続けた。


「明日の夕方四時に大通りのバス停で待ってるよ」

「……」

「じゃあ、明日待ってるから」


そう言って電話を切ろうとしたその時

「話って、」

千尋のか細い声が漏れ聞こえてきて、慌てて携帯を耳にあてた。


「何?」

「話って、佐伯君がわたしに話したいことってそれだけ?」

「え」

「その他にもっと悪い話がある、なんてことないよね?」