初恋の向こう側



店を出た俺達は、オサ達と別れた後で千尋を送るため歩いていた。

何気ない沈黙ができた時、ふと千尋が言った。


「さっきの“まひろ”って、もしかして椎名 茉紘さんのこと?」


思わず、足を止めた。


「わたし、これでも中学の時は陸上部のマネージャーやってたの。だから、椎名さんの事は知ってるよ。有名人だったし。
そういえば彼女も深崎だったよね?」

「有名人?」

「うん。足が速いだけじゃなく美人でスタイルも抜群で、うちの中学にも憧れてるコいっぱいいたなー。わたしなんて名前は一文字違いでもチビで運動オンチだし、うらやましいな~っていつも見てた。

椎名さんって高校でも陸上やってるんでしょ?」


千尋の口からヒロの名前が出るなんて思いもしないことで。

まったく予想外の事に、驚きとで同時に胸ん中が曇った。


「俺、よく知らないんだ。クラスも一緒になったことないし、中学も別だから」


咄嗟についた嘘だった。


「そうなんだ…」


それに対して静かに応えた千尋。

でも所詮それは他愛のない、意味もない嘘。

ヒロと千尋の接点なんて無いんだから、つくだけ無駄だったかな……。

なんてことを思っていたんだ、その時は。