初恋の向こう側



クリスマスイブ。

隣には、子供みたいに跳ねるように歩く千尋がいる。


俺に彼女ができたことを知って、皆が驚いた。


愛莉は『それでいいの?』と言い、オサは『俺はてっきり梓真は…』と言いかけ言葉を濁した。

それから一年の時に同じクラスだったナミが、わざわざ俺の席まで言いにきた。『佐伯には椎名さんの方が似合ってるのに』って。

千尋と一緒にいるところを見かけたらしいが、まったく勝手なことを言いやがる。

そんなこと言われたってヒロはヒロ、俺は俺だし。


それにヒロには ――

……もう、始めたことなんだ。



「佐伯君、ちょっといい?」


千尋が、俺のコートの合わせめに手を掛ける。


「また、ずれてた?」


問いかけると、はにかんだ仕草で小さく頷き。

そしてボタンをかけ直して「うん。いいよ」と笑顔で俺を見上げた。