初恋の向こう側

 
「じゃあ、なんで乗っちゃったの?」


あきれながら訊いた。

すると、俺を見上げ目を見開いた彼女が口を開き何か言いかけたが、でもすぐに俯いてしまった。


まいったなぁー。

表情も伺えない目の前の小さな体から視線を上げれば、車窓から、流れる景色が見えた。

さて、どうしたもんかな……。

気づかれないようにそっと小さな溜め息をこぼした。


「……あのっ ─」


ふと声をかけられて見れば、震える瞳で俺を見上げている彼女。

切羽詰まったようなその表情は、気迫すら感じる ── けど。

……ただガン見されてもな……。

何も言わず目の前に立ってるだけじゃ、こっちだってたじろぐしか術はない。

俺から何か言った方がいいかと迷っていた ── その時だった。


「好きなんですっ」


突然吐き出された言葉に目が点になった。


「え」

「好きです! 佐伯君のこと」


って……今ここでかよ?

面食らっている俺に構わず続ける彼女。


「ずっとずっとずーっと前から、好きでした!!」


幸い、この時間のバスはそれほど混み合ってはいない ── にしても視線を感じた。


「いつもあの図書館で、時間を潰して待っていました。バス停まで歩いてくる佐伯君を見ていました。

この前バイト先へ行ったのも本当は探し物があったわけじゃなくて、あそこへ行ったのも図書館も本が好きだからじゃないんです!

……あっでも本はやっぱり好きだけど……。いえ、私が言いたいのはそんなことじゃなくて……いつも待っていたのは、あなたが好きだからなんです!」


俺を真っ直ぐに見つめる彼女の瞳が、さっきより潤んでいた。