初恋の向こう側


「あのぉ、こんばんは」


俯いていた俺の目に、セーラー服のスカートの裾が映った。

顔を上げると、ハーフ丈のコートを着た彼女が立っていた。


「寒いですね?」


そう言って微笑んだ口元に八重歯が顔を出した。

とっくに日は沈んでいる。


「こんな時間にいるなんて、なんか部活でもやってんの?」


よく会うなぁ、なんて思いながら訊いてみた。


「いいえ。そこの図書館にいたんです」


ちょこんと小さな指先が差す方を振り返ると、市立図書館の背中が見えた。


「本が好きなんだ? この前もうちの店に来てたし。
図書館ってこんな時間まで開いてるなんて知らなかったな」


そう言うと彼女は、何故だか慌てた素振りで

「い、いいえ。 もうとっくに閉まってますっ」

と答えた。


そこへ、ヘッドライトを煌々と灯した一台のバスが入ってきて。

それを見て「来ちゃった」と小さく呟いた彼女。

俺は腰を上げ、その隣に立ち上がった。