狭間に落ちる


あたし、あなたを小川さんって呼ぶわ

今さらだけど

あなたとか

ねえとか

ちょっと、とか

名前がないって不便だわ

それにあなたって小川みたいなの

実家の近くにあった小川そっくり


あたしは男に名前をつけた

本当はずっと、心の中では

「小川さん」と呼んでいたのだけれど

声に出して呼びたくなってしまったのだ


「不便とか、そんな現実みたいなこと」


男は珍しく、少し嫌な顔をした