落ち込んだ心自分で慰めたくなって
向かったのはあの海岸。

数日前にユウキと出会ったのと同じ場所。


相変わらずそこの一角だけ
全く人けがなくて
ここからかなり離れた砂浜では
花火とかで盛り上がってる人達
その音がかすかに聞こえる。


もしかしてケイが私のためにこのエリア
特別なバリア張ってくれてたり?

なんてくだらない
B級映画みたいな事考えながら
砂浜をゆっくり歩き

やがてギターケースと鞄をその場に置いて
汚れるのも気にしないで
砂の上に寝ころんだ。


どこまでも広い空には
綺麗な三日月と星。

この眺めの下だったら
まだ夏の暑さ真っ盛りの湿気じみた空気も
かなり心地よく
感じさせてくれるから不思議だ。


少し前に受信したメールの内容が
頭の中ぐるぐると回る。


差出人はハルト。
内容は
『クロスゲージの人たちと仲良くなって
これから飯食いに行くから
先帰ってていいよ』


嘘かもなんて疑ってしまう自分が
もの凄く嫌だった。

私がステージで歌った事
彼も同じように怒ってるのかも。

だって“一緒に行こう”って
普段の彼なら言ってくれる。


……駄目だやめよう。


こんなこと考えてもきりがないし。


だから余計な詮索はしないで
『わかった、楽しんでね』
ってメール彼に返信して
スタッフの人達に挨拶した後
ただ一人ライブハウスを出たんだ。


ユウキとの共同生活もライブまでって
約束だったから
もうあの家に帰る理由が見つからない。


実際にはまだ荷物とか
取りに行かなきゃいけないけど
きっとユウキは
打ち上げとかで遅くなるだろうし
今日は一人であの家にいたくなかった。


大の字になって潮の音を聴く。


それなりに胸に響くけど
やっぱりギターのノイズとか
そういう音の方が好きかも。


夜空を眺めながら瞬きを一回
そしてゆっくりと瞼を持ち上げた時
視界いっぱいに広がって見えたのは
夜の黒い闇を覆い隠すほどの白色――

……その白い物体が沢山
顔に迫ってきてて……
驚いて身体を持ち上げた。