――マンションの前の道
ちょうど救急車が通過して
そのサイレンの音を聞く。


昔の記憶色々思い出して
心ここに非ずみたいに
放心してしまった私の事心配して

ユウキが冷蔵庫から
ミネラルウォーター持って来て
蓋まで開けて手渡してくれた。

御礼を言って少し口に含むと
浄化された水が
身体にひんやりと染み渡る感覚に
また涙が溢れそうになったのを
喉に力を入れて我慢する。


ユウキは無言でそんな私の姿を見て
また元の場所に座り
今日何本目かの煙草に火をつけた。


「――お前と別れてからあいつ
直ぐに色んなレコード会社に
コンタクト取ってスゲー頑張ってた。
一分一秒でも早く
お前の事迎えに行けるように。

……まぁでもさ、
やっぱり遠く離れたお前の事
心配だったみたいでさ
そん時思い付いたのは
日本に住んでる俺を上手い事使うって事。

そん時俺はあいつと同じ18歳の高校生。
一回止めた歌また始めて
東京で新しくバンド仲間
探してたとこだった。

そしたら何の偶然か
お前がこの街にやってきて
親父の残してくれたこの部屋もあったし
ケイにいいように言いくるめられて
春になった時こっちに引っ越して来たんだ
お前の様子見る為に……」

「な……!」


有り得ない話の展開に
思わず大声を上げた。


信じられない……。
いくらケイに言われたからって
そんな理由で
引っ越しを決めちゃうなんて。

しかもケイってば何でこと頼んでるのよ!


俺様気質のケイの性格に呆れて
思いっきり顔険しくなった私を見て
ユウキは吹き出したように笑う。


「ハハッそんな大袈裟に考えて貰ったら
困るんだけどさ
色々タイミングが重なっただけで
俺にとったらたいした事じゃないんだ。

元から進学するつもりなんてなかったし
こんな事でもなかったら
色々わだかまりが残ってて
素直にこの家住めなかっただろうし
ケン達と一緒にバンド組んで
デビュー決まることも
なかったかもしんねーし。

前も言ったけど、こっち戻って来て
本当よかったって思ってるんだ」