「……アキ、アキ」


その声に導かれるまま目を覚ますと
霞がかった景色の中に
私を覗き込むようにしたケイの顔と
真っ白い天井が視界にうつった。


背中の下には少し固めのマット
右手には点滴の管。

迷う事なく理解する
病院のベッドに横になっている私。


怖ず怖ずと身体を起こすと
ケイがフワリと私を抱きしめた。


「よかった。
お前、あれから二日間気失ったままで
全然目覚まさないからさ」


少し震える声で囁かれたその言葉。


あれから……?
二日間……?


その瞬間蘇る記憶。

血で赤く染まった腕と
炎に包まれ崩れ落ちる壁。

そして――


「ケイ!腕は?
それにジェフとお母さんは?」


叫ぶように言うと
ケイはやんわりと私の身体を離し
枕元にあった椅子に座ってこっちを見た。


その瞳を見て全てを悟る。

あぁ、やっぱり……。


「どうせすぐにわかっちまうから
隠さずに話すけど
親父もお前のお袋も死んだ。

焼け跡から寝室のベッドで
二人並んで横たわってるのが発見されて
親父は出血多量死で
あの女は焼死だって」

「……そっか」


冷たいようだけど
それしか言葉が出なかった。


事実としてすぐに受け止めて
ふと頭に過ぎった別の疑問。


「あとお手伝いさんたちは?
皆無事?」

「あぁ皆離れで寝泊まりしてるし
全員無事だったよ。
まぁ俺らと同じ睡眠薬で眠らされてて
火事には全く気付いてなかったらしいけど。

俺も警察の事情聴取で色々話して
あと鑑識の結果とかで
今回の事件は全て被疑者死亡って事で
まとまるだろうって」


最後に見た母の姿を
微かにだけど思い出す。


ただジェフだけを愛し
彼に愛されたいと願う
嫉妬に狂った女の姿――。

ケイの母の影に怯え
どこまでも堕ちてしまった可哀相な人。

同情はするけど
その行為は決して許される物じゃない。


ジェフを殺し
ケイをあんな状況に陥れたあの人が
やっぱり憎くて憎くてたまらない。

だって――