――――――

……何なのこれ?

あいつ、ユウが私に何か言って
この家から出ていってしばらくたっても
未だ自分の状況を理解出来ずにいた。

沈黙が広がる部屋の中
ズギズキと痛む傷口が
今までの事は全て現実だと
嫌でも実感させられる。


あんな訳のわかんない男の
言いなりになんか
意地でもなりたくない。

……でも
時折ケイを思い出させる彼の空気が
妙に気になるのも事実で。

それに――、


ずっと床のタイルを見続けてた視線を
部屋の奥の窓際の方に移すと
真夏の太陽の日差しが
ブルーのカーテンの隙間から差し込んで
眩しさに目を細めた。

熱を持った刺すような光が
地球上の全ての生物に
エネルギーを与えていくかのよう。


温度も色もない
あの冷たいだけの家には
どうしても帰りたくなかった。

今あの暗闇の中に戻ったら
とても正気を保っていられそうもないから。


再び俯き加減になりそうになった時
ガタガタと騒がしい音がして
玄関の扉が開いた。

ユウは紙袋を抱えて部屋に入ってくると
開口一番呆れたように


「いつまでそうしてんだよ
いい加減順応しろ。
この状況を逆に楽しむぐらいにさ」

「そんなの無理に決まってる。
常識で考えたら
こんなのありえない。
早く写真返してよ」


上目使いで睨み付けた私の事など
意にも反さず
ユウは紙袋の中からドリンクや
サンドイッチ類を取り出し
ガラステーブルに並べる。


「常識なんてもん物差しにしてると
ツマラネー人間になっちまうぞ?」

「偉そうに」


そう冷めた目をして独り言のように呟く
頑なな私の態度に対し
彼は床にあぐらをかいて座り
まっすぐにこっちを見た。


間近で感じる眼光の鋭さに
身体すくんだように固まる。

目が反らせない――。


「――世間一般で言われてる
情報になんか捕われんなよ。
最後は今まで自分が見て感じて来た物で
判断した方がいいぜ」