無機質なアラーム音が鳴り響く。
そちらを振り向かず手を伸ばし、スイッチを切る。
このごろは何故だか目覚ましが鳴るより早く目が覚める。
少しずつはっきりしていく意識の中でアラームが鳴るまでぼうっとしている。
こうしている時間がずっと続けば・・・。
そう考える自分に苦笑いをし、頭を掻きながら身体を起こす。

リビングに行くと母親が僕の分の朝食を用意していた。
「あら、今日は起こす前に降りてきたのね?」
「ああ、うん。目が覚めたから・・・。」
親父はもう家を出たようだ。
まあ、親父が出て行く音を聞いたから起きてきたんだけど。

テーブルの上には、親父の湯飲みと新聞が置いてある。
一面では今日も政治家の発言が話題となっているようだ。
なんとなく見出しを読んでから、今日の日付と天気を確認する。
「今日から4月か・・・。」
壁のカレンダーをみると、もう4月のものになっていた。
「4月・・・。」
テーブルにはご飯と温めなおされた味噌汁が並べられた。
「今日から3年目ね。早く食べて準備しなさい。」
今日から社会人になって2年が過ぎ、3年目になったのだ。
「もう9年か・・・。」
「え?どうかしたの?」
「ううん、なんでもない。いただきます。」

味噌汁を飲み、ふうっ、と一息ついて、もう一度カレンダーを見た。
9年前。
あれは高校2年のとき。
新しい教室の新しいクラスメイトたち。
その中の一人。
僕が未だに忘れられない人。
出会ってから9年が過ぎ、10回目の春がやってきたのだ。