「いってらっしゃい」と仕事に出かるあいつに手を振った

戸惑いながらぎごちない笑みで
あいつは仕事に出勤して行った

家でどんなことがあろうとも
あいつは教師だ

学校に行けば、いつもの久我先生となる

パタンと玄関のドアが閉まり
鍵をかける音がした

ふぅっとあたしは大きく息を吐き出すと
その場に座り込んだ

壁に寄りかかると
勝手に目頭が熱くなって涙がこぼれてくる

苦しめたくない

これ以上
あいつが苦しそうにするのを見ていたくないんだ

たった一回の過ちで
あいつの人生を大きくかき乱してしまった

あたしのせいだ

どうすれば…いい?

どうしたら離婚するって言ってくれるのだろう

そしたら
まだ婚姻届はあたしの手元にあるから
離婚じゃないんだよって
言えるのに…

どうしてあいつは
「離婚しない」って言い張るのだろうか