居間にピーンポーンという呼び鈴が響いた

マンションの玄関ホールではなくて
すでに家の前にいる

すぐそこの玄関の向こう側に誰かが来ている音だった

「誰だろ?」

あたしは立ち上がると、インターフォンの通話ボタンを押した

「はい?」

『こんばんは
島谷 美雪です
久我誠也さんは御在宅ですか?』

この声…朝、会った人の声だ

あいつの本命の彼女

「あ…はあ」と返事をして振り返ると
あいつは脱いだばかりのスーツを羽織っていた

「僕が出るよ」

いつもより数段低い声であいつが言う

「あ、うん」

居間のドアをさりげなく閉めながら
あいつは玄関に向かっていく

あたしに聞かれたくない話をするんだ

なんて、思ってしまう

あたしはパタンとしまったばかりの
ドアの横に立つと
玄関に聞き耳をたてた

どんな話をするのか
すごく気になる

これから妊娠していることを話すのだろう