貴樹浩平、3年A組。

人懐っこくて、明るく、クラスの人気者。

そして顔も良し。モテる。


それがアイツと会って一週間で仕入れた情報。



「あー!貴樹先輩じゃん!かっこいい!」

「ねー!あの笑顔とかヤバすぎ……って、あ!手振ってくれた!」


クラスで女子が騒いでいた。

それはあの女たらしが原因。

女子がキャーキャー黄色い声を送っているのに対し、

私は自分の席でのんびりと本でも読んでいた。

アイツがいるから図書室へは行けず、この本は学校の近くの本屋で買ったもの。

というか顔がかっこよくても中身が最低だったらダメじゃん。

みんな騙されてるよ。


悲しいことに、この学校では1階にA組、2階にB組、というようにクラスで階が分かれている。

私は1年A組で、3年A組の誰かさんとはすれ違う頻度が高い。

すれ違うたびにアイツは何も言ってこなくて、だけどにこやかに笑顔を送ってくる。

それが嫌だった。

それによってクラスの女子はうるさいし、アイツ自身嫌いだし、

最悪なことだらけだった。


「……えっと、天崎さん。」


クラスの女子が一人話しかけてきた。

大人しそうで、でもちょっとビクビクしている。


「あ、あのさ、古典のプリント提出なんだけど……できてる?」

「……」


私は何も言わずに彼女にプリントだけを手渡した。

すると彼女は小さく「ありがとう」と言ってそそくさと逃げて、

仲の良い人たちの元へいって、


「無言だった!怖い!」

「天崎さんって何か怖いよね……いつも一人だし。」

「寂しくないのかな?」

「好きでいるんでしょ?いいんじゃない、放っておけば。」


なんてコソコソ陰口。

聞こえてるよ、丸聞こえだよ。

怖い、か。確かにクラスの人とは喋らないし、常に無言だからそうかも。

寂しいって言われても、寂しくはない。変にうるさい奴がいるよりマシ。

そう、好きでいるの。だから放っておいて。