迷姫−戦国時代

朝日が障子の向こうから入ってくると狛津は腰を上げ不意に自分の琵琶を手に取ると障子を開ける。素足で庭に出ると己の琵琶等を適当に地面に置く。俺はそれらを眺めた後、火打石を取り出し石を叩くそして・・・それらに火を付けた





少しずつ、少しずつだが火が移り俺と菫が過ごした物が灰になっていく






俺はそれを無言で眺めていたら勢いよく地に身体がついた





「ハァ、ハァ。狛津、お前さん何しとるんじゃ」



師匠が滅多に見せない形相で俺を見つめた



そして俺は初めて頬の激しい痛みに気がついた

赤くまで晴れ上がった頬に手を添え俺は師匠に殴られたのだと



「お前さん、この行為が一体何をしたか分かってやっておるのか」




そんな事ぐらい分かってるよ琵琶師にとって琵琶は命の次に大切な物であるくらい。ましてやその琵琶は俺の中では最高の出来である琵琶だから物の価値だって分かってる。だけど俺は・・・



「俺は誰にも指図されない。俺が何をしようが、んなの勝手さ」

「お前さん、昨夜誓ったあれは偽りなのか。狛津、お前さんはこの国の・・・神を裏切るのか?」

その言葉に身体中から怒りがフツフツと込み上げてくる

「俺は昨夜、神の為に魂胆込め琵琶を弾いた。だがその日、俺の想い人が殺された。神は助けてくれなかった・・・。

・・・っ神は俺を裏切ったのさ」


弱々しく答える俺の姿に師匠は思わず目を見開いた



「だから俺は二度と手にするまい。
全てを捨てたのさ。
これがその証拠です硲師匠」

燃え上がっている火の中を指差しそう吐き捨てると俺は逃げるようにその場から去って行った


俺はあの日を境目に国一の称号も職も・・・全てを捨てたのさ琵琶と共に


菫、お前が居なければ俺は誰の為に弾けばいいのか分からないんだ
いつの間にかお前は俺にとってとてつもない存在だった



そして俺は無くすのが怖くなった。だから琵琶から目を背けたんだ



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「可笑しいだろ?もう失う物が無いのに俺は逃げたのさ」

私は全てを打ち明けてくれた狛津さんの姿がとても悲しく映り、胸が痛むのでした