私の願いに快く承諾して下さった狛津さんは私から琵琶と撥を受け取る
だが撥を使わす指先で弦を弾き私と彼との間で一音だけ響き渡る
それを弦の場所を何度も替えては繰り返す姿に謎が深まる一方でした
「あんたは一つ一つの弦が生む音を、どう思う?」
「え・・・それは、曲を作る為の音にしかないのではないでしょうか?」
そんな事、今まで考えもしなかった
始めて琵琶を手にした時も弦の音など、昔から決まっていた当然の音であり、疑問など持つ事なんて無かった
ただひたすら琵琶を弾き続けていた私にとってそれは衝撃的な言葉でしかありませんでした
「確かにそれが一般の答えだ。だがそれだけじゃ足りないんだ」
「弦は四本。たったの四本だがどうだ?」
私が先程弾いた「茨木」の始めを少し弾いてみせた狛津さんはこちらを見た
「な?こうやって様々な曲が作られているだろ。
琵琶だけじゃ無い、横笛や三味線、琴、尺八、それに太鼓だってそうだ。全ての音を聴き、理解した上で始めて曲が出来る。
ただ弾いてるだけなんて・・・
つまらないだろ?」
ほくそ笑みながら答える狛津さんに私は漸く気づきました。何故彼はこれ程上手な訳を・・・。それは一音一音の楽しさや意味を熟知しているため
「師匠が言われた意味を漸く理解しました」
私に足りなかったものは”感情”
彼と私の音の違いはそこなのだと改めて気づかされるのでした
狛津さんの目を真っ直ぐに見つめそう告げますと彼は優しい表情を見せ私に向けました
「そうか・・・。
ほら、稽古を続けるぞ?
――、」
私は最後に述べた言葉に耳を疑いました。でも彼は確かに
私の名を呼んでくれたのでした
その事が嬉しくて思わず顔を背けてしまいたい気持ちになりましたが何とか堪え晴れやかな笑顔を向けるのでした
「―――はい!」

