ふわりと暖かな風が彼の頬を撫で、髪を靡かせる。
広い庭園の中でも特にシンデレラが気に入っているのは、ガゼボがあるところだ。

その周りを囲むように、時期によって違う花が咲き誇る。
彼女はそこで読書をしたり、ティータイムを過ごすのが好きだと、クロードは知っていた。


「……はどうでしょう」

僅かに聞こえてくる、愛しい彼女の声。
その姿に、抱き締めたい衝動に駆られる。
けれどまだ、少し距離がある。

そして見慣れた黒猫の姿も目に入った。
楽しそうに何かを話す彼女と一匹。

「やぁ、クロード」

先に彼に気がついたのは、ウィズだった。


「何を話していたんだい?」

シンデレラの隣に座り、クロードは訊ねた。

「えっと……」

いつもなら楽しそうに教えてくれる彼女。
けれど、今日は違った。


「たいした話しではないよ」


シンデレラの代わりにウィズが口を開く。
その時は特にクロードも気にしていなかった。