シンデレラが出て行ってからも、広い湯殿に一人 彼は居た。
「・・・・・」
キスなんて、しなければよかった。
彼女に、触れなければよかった。
( 嫌いじゃない )
信じてほしかった。
抱き締めれば、口付けをすれば、それは本当なのだと 伝わると思ったのに。
「・・・・僕は愚かだ」
憎い者に触れられるのなんて、嫌に決まってる。
そう分かっていたんだ。
なのに僕は、自分の想いを抑える事が出来なかった。
( ――――っ )
唇が離れ、目に入った彼女の表情(かお)は とても悲しそうで、今にも涙が流れそうだった。
「・・・・ごめんよ、シンデレラ」
まさか“愛しい”という感情が、こんなにも僕自身を狂わすなんて、思いもしなかった。