「次からは、慌てて食べないようにしてくださいね」

患者が診察室を出て行くと、澤木はブラインドの隙間から外の様子を見た。

「最近、こういう天気が多いですねぇ」

さっきまでの晴れ方が嘘のように、雨は白いしぶきをあげて道路に打ちつけている。

でも良かった。
こう暑いと、熱中症になる人もいるだろうから。
これで少しは、涼しくなってくれるといいんですけどね。

澤木が次の患者を呼ぼうと、視線を室内に戻そうとしたときだった。

全身ずぶ濡れの5,6人ほどの集団が、敷地に入ってくるのが見えた。
舗装された通路を無視して、雨に煙る芝生を斜めに横切ってくる。

その集団が近づいてきたとき、澤木の目の色が変わった。
集団の真ん中に、横たわった状態で運ばれる人影が見えたのだ。
澤木は、受付にいた看護師に呼びかけた。

「桜井さん、急患です。タオル用意してください」