「わ!びっくりした!」
ピアノを弾いていた男が、驚いてこちらを振り返る。

「びっくりしたのはこっちだよ!!」
と突っ込みを入れたくなる衝動をなんとか抑え、小林は男の顔を確認した。

白髪交じりの髪の毛を、きちんと七三に分けている。
少し酒が入っているのか、心なしか顔が赤い。
こんなオバケ、万が一いたとしても怖くもなんともない。

「・・・音楽院の先生ですか?」

「そう。いやあのね、明日教え子の結婚式があるんで、余興の練習をと思って」
髪を七三に分けたオバケは、そう言うと笑った。

「ごめんね。管理人室に誰もいなかったから、勝手に入っちゃった。エヘヘ」