キッチンまで歩いて冷蔵庫を開けると、いつものミネラルウォーターが切れていた。

ため息をひとつ溢し、傍にあったマグカップを手に取る。

それを蛇口の下へ運び勢いよく水を出すが、あの鉄屑を舐めたような味を思いだし、そのままシンクの中へカップを置いた。

そしてゆっくりと振り返り、暗闇を見渡した。

狭い団地の一室、そのLDK。もうテレビもソファもテーブルも、何もない。

ここを隔てて右側があたしの部屋で、反対が沙織さんの部屋だ。

ここで過ごす最後の夜、あたしたち母娘(おやこ)にとっての最後の夜。

沙織さんは、眠れているんだろうか……?