「それじゃあ俺、帰るね。由那ちゃん、おやすみ」
ソウタ君のその声に、あたしは食器を洗っていた手を止めた。
振り返った時、居間でお茶を飲んでいたはずの彼の姿はもうなくて、急いで手を洗った。
玄関を出て声をかけると、振り向いて視線を合わせた彼の表情が緩んだ。
「あたし、羽田でのお礼もろくに言ってなくて。ただビックリしちゃって……」
「だよね。乗る飛行機だけじゃなくて来る場所も同じだったなんて、ねぇ?」
「はい。お陰様で無事に着きました。ありがとうございました」
頭を下げるとソウタ君は、慌てて姿勢を正して「どういたしまして」と言って、そしてまた少年ような笑顔を見せた。
「俺、ジンさん……えっと空港から汚い車で送ってくれた。あの人の家に居候してるんだ。ここから近いんだけど暗くて今は見えないか……。
なんかわかんないことがあったら、遠慮なく訊いてよ? じゃ、またね」
「はい、おやすみなさい」
その後ろ姿は優しくて、見送りながらあたしも、彼を真似るように一人笑顔になっていた。



